プリンを通して「酪農業」の魅力を広めたい(大富さん/佐賀県)

佐賀県で酪農を営むご主人との結婚をきっかけに、自社生乳を使用した「牧場プリン3」の製造・販売を始めた大富さん。熟成で味が変化する「熟成式プリン」が生まれた経緯や製品のこだわり、酪農への思いをお伺いしました。

結婚を機に酪農へ

私は高校卒業後、東京で10年くらい舞台や映像作品の演者として働いていました。その後、母の体調が悪くなったことをきっかけに地元佐賀に戻り、アパレルの会社に勤めました。その時期に酪農を営む主人と出会い、結婚をきっかけに、酪農を始めました。実は私の主人も元は学校の先生を目指して福岡の大学を卒業していましたが、実家が酪農家だったこともあり北海道で1年研修をし、酪農を継ぐ決心をしたようです。

堆肥から始まった個人販売

主人の牧場では、飼育する牛の排泄物を堆肥にして、その堆肥を活用して自社で牧草を育て、その牧草を食べて牛が成長する、という「循環型農業」を実践しています。その循環の過程で作る、もみ殻を入れてサラサラの砂のようにした質の良い堆肥が、牧場には豊富にありました。農業従事者に需要があり、それまで事業者向けの大型販売はしていたのですが、家庭用の小さいサイズでの販売はありませんでした。そこで、当時アパレル企業を退職して時間のあった私は、近所で家庭菜園をする個人向けに20Lくらいの袋詰めにして、無人販売をしてみたのです。すると、とても反響があり、30袋が一日で売り切れたこともあるほどでした。私はせっかく牧場に嫁ぐなら何か自分自身でも生産して販売したいと思っていました。新たな物を生み出し、事業の役に立つことが楽しかったので、今の加工品販売に行きつきました。

地域との関わり・自社ブランドの検討

酪農家に嫁いで分かったことは、酪農は毎日牛と向き合う職業なのでとてもやりがいがあると同時に、生き物相手なので一日たりとも現場を離れることができず、外の世界を見る時間があまり取れないということでした。そんな主人や家族を見て、自社の生乳が消費者に届くまでを見届けられないことが、少し寂しく感じました。また自社生乳は品質に自信がありますが、販売店に並ぶまでに各社の生乳が混合され均一な品質に製品化されるので、お客様にはどこの生乳かは分からなくなります。そうした背景から、せっかく愛情をこめて育て絞った生乳なら、自社ブランドでも売り出したいと思うようになり、自社のオリジナル製品を作ることを真剣に考え始めました。
また、地元の酪農家として、地域や近隣の方々との繋がりももっと作りたいと思いました。自社生乳で地元の特産品のようなものができれば、地域とのコミュニケーションのツールになり、地域の活性化にも少し貢献ができるんじゃないかとも考えたんです。

製品開発のトライアルへ

自社ブランド製品を作るうえで最初に挑戦したのは、チーズやジェラートです。自社生乳の素材を活かせば良い製品が作れる事は自負していました。ただ趣味ではなく継続的に生産する事を考えると、初期投資費としての製造施設代がかかりすぎてしまう事が分かりました。色々検討する中で、トライアルとして自分のできる範囲で始めるためには、お菓子ならそこまで大きな費用がかからないのではと考えました。また、お菓子を作る中でも、特にプリンの試作品は子供たちが食べて本当に喜んでくれました。こんなに誰かが喜んでくれるなら、ちゃんとした製品を作りたいという思いも、プリン作りを本格的に始める原動力となりました。

3年かけ完成した「牧場プリン3」

現在の看板商品となっている「牧場プリン3」は試行錯誤し、完成まで3年かかりました。本来はもっと早く発売しようと考えていたのですが、2年目でスランプに陥り、納得のいくものができなくなりプリンの夢まで見るくらいストレスでいっぱいになりました。そんな失敗したプリンがたくさんできてしまったとき、近所の子供たちが遊びに来てくれて振舞ってみたところ、声を上げて喜んでくれて、その姿を見て気持ちを新たにし、再度一から試作を始めました。

試行錯誤が3年目に入ったある日、「あれ?同じプリンのはずなのにこの間食べた味と違う??」と思うことがありました。なんと、製造日からの経過日数により熟成度が増し、プリンの味が変化することを発見したのです。それは何度試しても、やはり違いました。
これは珍しいと思い調べたところ、脂肪分を加工しない生乳で作っているため、作ったその日から熟成が進み、一日目はあっさりとしているのに、日が経つにつれ濃厚になるという「日本発の熟成で味が変化するプリン」になったということが分かりました。やっと「これだ!!」と思える自社生乳の強みを生かすプリンができたため、販売を決定しました。苦労した3年間は無駄じゃなかったなと思えた瞬間でした。


辿り着いた”3つ”の素材

「牧場プリン3」は、原料の生乳を生産する”牧場だからこそ”を追求した、体にも優しいプリンになりました。素材の美味しさを最大限に引き出すため、余計なものをどんどん差し引いています。結果、使用している素材は、「生乳」、「たまご」、「きび砂糖」の3つのみです。

「生乳」は、自社牧場で搾りたて3時間以内のものを使っています。美味しい生乳には健康な牛が一番大事です。うちで飼育する牛は、健康に気を使い自社栽培の牧草や自社ブレンドの餌を与えています。また一般に販売されている牛乳は、脂肪の大きさを均一化する加工がされていますが、うちの生乳は加工せず自然なままで使用しています。そのため、プリンを作ったときに脂肪の粒子の大きいものが上に浮きあがりクリーム状になります。一番上の部分がこれで、生クリームをのせてるわけではないんです。

「たまご」は、旨味とコクの濃さが特徴の、「ネッカリッチ農法」*1で育った佐賀県産の鶏の卵を使用しています。この農法では様々な有効成分が鶏の身体に働きかけ、鶏の新陳代謝が活発になると言われています。色々な種類の卵でプリン作りを試して、安定した美味しさを保てる卵を選びました。また飼育環境についても、そこの養鶏所では一羽一羽を気遣い育てていて、鶏への愛情も感じられたため選びました。

「砂糖」は、奄美諸島のきび砂糖を使用しています。味がとてもよく、特にコクとうまみが格段に違ったので決めました。実はこの砂糖で作ると、砂糖の焦げ跡が出て取り除くのにはひと手間かかります。それでも旨味が良くプリンに合うので、作業コストはかかりますが使用しています。

素材選びにとことんこだわり、安心して召し上がっていただける商品になりました。

フリマアプリで個人販売スタート

最初にプリンを販売開始したのは楽天「ラクマ」です。当初から販売開始する際は、フリマアプリなどネットで個人販売する程度が自分の生産規模には丁度良いと考えていました。また、そのタイミングで所属する「農業女子PJ」から紹介されたのも、楽天「ラクマ」でした。製品の最終調整段階でしたので、完成のころに始めさせていただきました。当初はネット販売が未経験でしたので、お客様とのコミュニケーションの取り方や、配送の仕方など、かなり勉強しました。今はリピーターさんも多く、そういった方々と繋がれる販売ツールとして重宝しています。また、楽天「ラクマ」を見た方から実店舗販売の引き合いが来ることもあります。取引実績やお客様の評価が信用度にもなるので、バイヤーさんなども参考にされているように思います。

生産体制の強化

最初は1人で、楽天「ラクマ」のお客様のみに少量販売をしていました。慣れないうちはとても忙しく、睡眠時間を削って対応していました。その後、実店舗販売の他の取り引きが決まった時には、これ以上は生産体制を変えない伸ばせないと思い、やっと体制を見直しました。具体的には業務用の大きなオーブンを購入し、生産場所を拡張し、私以外でも生産できるように、スタッフに作り方を共有し教育をしてきました。そのおかげで最近は、私以外のスタッフにも、同じように任せられるようになってきましたので、今後はより多くのお客様にお届けできればと思います。

「酪農業」をもっと広く知ってもらいたい

佐賀の酪農家は、私が結婚したときは107件ありました。それが12年で38件にまで減って、数は圧倒的に減少傾向にあります。「酪農」は魅力的な職業なので、もっと知ってもらって、なんとか盛り上げたいと思っています。実は酪農では生乳の販売先に困ることがありません。絞った生乳は絞っただけ全て売れるのでロスがなく、お肉も余す事なくきちんと販売ができるので、やればやるほど成果がある仕事なのです。ただ身の回りに酪農家が多くないので、仕事としての印象が薄く、始めるのにハードルが高い職業なのだと思うのです。ですので、その酪農の魅力を私がなるべく広めて、次世代に繋げるようにしたいです。うちの「牧場のプリン」は、そのきっかけの一つであればいいなと思っています。もちろんプリンの美味しさを知っていただきたいですが、牧場から発信されるコミュニケーションツールとして、その先の魅力的な「酪農」という職業も広げていきたいなと思います。

【プロフィール】

お名前:大富藍子 さん

地域:佐賀県

ショップ名:大富牧場

ショップURL:
https://fril.jp/shop/flyingcow

fril.jp

*1:「ネッカリッチ」とは飼料に木酢液や炭を混ぜたもので、それを家畜に与える農法

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